共創学部長
荒谷 邦雄
あらや くにお
学 位:博士 (理学)
専門分野:昆虫学、生物多様性科学
共創学部は2018年4月に新設された学部です。九州大学に学部が新設されたのは実に50年振りのことです。なぜ、このタイミングで新たな学部を作る必要があったのでしょうか。
それは、皆さんが歩む時代は、これまでとは大きく異なり、従来の学部での学びだけでは、これから起こる変化に対応できないからです。大規模な気候変動、生物多様性の喪失、民族対立、テロ、パンデミック…… まさに現在の我々は地球規模・人類規模の様々な課題に直面しています。こうした課題を解決するためには、専門家同士はもちろん、様々な立場の人々が協力して課題に取り組む必要があります。そのためには幅広い視野と専門性を兼ね備え、課題に対して多角的な視野から、様々な方法論を組み合わせてアプローチできる人材が不可欠です。これこそが共創学部が目標とする人材像です。
しかしながら、本来、専門性とは「狭く・深く」一つの道を極めるものであり、幅広い視野とは矛盾するものです。一方で、幅広い視野を身につけるために、「広く・浅く」探求するだけでは、それこそ中途半端な器用貧乏に終わってしまいます。幅広い視野と専門性を兼ね備えるという、いわば矛盾した目標を達成するにはどうしたらよいのでしょうか。
共創学部が掲げるこの「幅広い視野と専門性を兼ね備えた人材」を目指す道程は、広い裾野をもった高山の登頂に例えられるかもしれません。山の頂(=専門性)はどこまでも高く、かつそれを支える広い裾野(=視野)を伴ってそびえ立つ雄大な山の姿はまさに幅広い視野と専門性を兼ね備えた理想のイメージです。しかし、この山を登頂するのは並大抵のことではありません。なぜなら、この高山は前人未到なのです。
従来の学部教育は、ある意味、整備された登山道を登るスタイルといえるでしょう。もちろん高い頂を目指す苦労はありますが、道に迷うことはありません。しかし共創学部の教育は、課題解決という頂に至るルートを自分自身が切り開いていくスタイル、まさに前人未到の登山です。山の麓にたどり着いただけで息が切れ、やっとの思いで山の斜面に取り付いたものの、いつまでたっても近づかない山頂に絶望するかもしれません。
そんな苦しく、先の見えない登山を成し遂げるためには、強い精神力と苦難に挑み続けるためのモチベーションを保つことが重要です。長く苦しい登山の日々でモチベーションを保ち続ける秘訣として、私個人は、「何か自分の大好きなもの、とことん知りたいことを見つけること」が重要ではないかと思っています。私は生物学者ですが、主たる研究対象は「クワガタムシ」です。私の研究のモチベーションは「大好きなクワガタムシの全てが知りたい」という欲求です。そんな私にとって、分類学や系統学、形態学、生物地理学、進化生物学、発生学、分子生物学といった生物学分野の様々な専門分野(ディシプリン)は、「大好きなクワガタムシの全てを知る」ためのアプローチの手段、さらに言えば道具だと思っています。要するに、私はこうした様々な専門分野の知識や技術を総動員して、世界中のクワガタムシを自分の手で捕まえ、その魅力の全てを解き明かしたいのです。
私の場合はクワガタムシですが、好きなものや知りたい対象は国や地域、歴史上の人物など何でも構いません。例えば、好きな国について探求するには、その国の歴史や民族、言葉、文学、政治、経済、社会はもちろん、自然環境や地質、動植物相についても知る必要があります。逆に言えば、好きなことや知りたいことを本当に極めようとすれば、自ずと多角的な視野から様々な方法論を組み合わせるアプローチを実践することになるのです。
こうしてみると、幅広い視野と専門性を兼ね備えるには、ある意味、究極の「オタク」になるのが近道かもしれません。「好きなことや知りたいことをとことん極めたい」というオタクのモチベーションがあれば、少々の苦労もやり甲斐に変えて乗り切ることができるはずです。
さあ皆さん、すでに好きなことや知りたいことがある場合には、共創学部に入学して、それをとことん極めましょう。好きなことや知りたいことがまだ見つかっていない場合には、共創学部に入学してそれを見つけてください。そして、まだ誰も成し得ていない高山を攻略するための第一歩を共に踏み出しましょう!